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この作品は、東方SS(二次創作)です

二次創作がお嫌いな方、オリジナルキャラがお嫌いな方はお帰り下さい
名無しの幻想郷住民(男)が主人公となっております
Flower memories


「なんで…なんでこんな昼間から!」

まだ陽の高い森に若き青年の声が響き渡る
その叫び声に重なるように、おぞましい声が何重にも響く
だがその声の全ては木々に吸い込まれ、誰の耳に届くこともなく消えた

青年は、森へ木の実やキノコを探しに来ていた
里の外は妖怪が出るとはいえ、昼間ならばそうそう出会うこともない
仮に遭遇したとしても、”博麗の巫女”の力が込められた霊撃札で退治できる
―そう、少なくとも昨日まではそれで対処できていた

「これが最後の一枚だが…行けぇ!」

青年は走りながら後方へと霊撃札を投げる
札は意思を持っているかのように妖怪の群れへと吸い込まれ、その力を解放した
光の奔流が生まれ、それに呑まれた犬の妖怪が―鳥の妖怪が―蟲の妖怪が霧散した

「やったか…?」

青年が後ろを見る―走る足はまだ止めていない
追いかけてくる者がいないことを確かめると、足を止めて一息ついた
普段は農業をやっているため体力には自信があるが、それにしても走り過ぎた
しかも、完全に道を見失ってしまったようだ

軽い休憩を終え、とにかく森を抜けることに専念する
収穫物はなくしてしまったが、今はこの危機を脱出する方が優先だ
―どれほどの時間を歩き続けただろうか
陽はまだ傾いていないものの、青年の体力は限界に近付いていた

「ん…?出口が見えたか!」

青年の足取りは自然と軽くなり、その方向へと前進する
森を抜け、そして青年が目にしたのは―

一面に広がる向日葵畑だった

「こんなところに花畑が…?」

人里の方面へと出られなかったことに落胆すべきなのだろうが、まるでその感情が浮かんでこなかった
見たことのない規模で咲き誇る向日葵たち―そのどこか現実離れした光景に感動していた
そして同時に疑問が浮かぶ
”この花畑は誰の物だろうか”という疑問
青年は何かに引かれるように、向日葵畑へと足を踏み入れた

周りを見るも、その目に映るのは向日葵と地面と空のみ
踏み固められた小道から”管理人”がいるのは明白だが、その姿は確認できずにいた
だが、ややあってこの畑の主と対面することになった―

「あら、人間がこんなところに何か用かしら?」

花畑の中にあった円形の平地―そこに白いテーブルと一対のイスが置かれていた
そこに座り、日傘を差している女性が青年に問いかける
しかし、青年は言葉一つ発することも、身動ぎ一つとることもできなかった

目の前にいるのは、柔和に微笑む美しい女性―だが、彼の本能が危険信号を発していた

今まで見てきた女性の中で、彼女ほど端麗な女性がいただろうか?―だが、逃げねばならない
素直に話せば助けてくれるだろうか?―だが、彼女は人間ではないのだろう
ならば戦うか?―だが、武器はなく、そもそも勝てる相手に思えない
いっそ諦めて喰われるか―そんな最期はごめんだ

彼の返答を待てなくなったのだろうか、その女性が立ち上がり、青年へと近づいていく

青年の心臓は早鐘を撞くかのように脈を打っている
足は竦み、手は震え、悲鳴を上げることさえできない
一歩、また一歩と近づく彼女の姿が、まるでスローモーションのように見える
そして、彼の世界は揺らぎ、回転し、暗転した



小鳥のさえずりが聞こえる
それとともに聞こえるのは―女性の歌声だろうか
心地よい歌声と柔らかい感触、花を思わせる優しい香りが彼を包んでいた

青年はゆるゆると瞼を開ける
彼が見たのは青い空と、誰かが着ている白い服、そして―

「おはよう、お寝坊さん」

覗き込まれたその顔を見るや否や、彼は言葉にならない悲鳴を上げながら飛び起きた
そして、慌てて状況を確認する

自分の体に異変はなく、死んだわけでもなさそうだ
彼女は呆れたような、すこし残念そうな表情でこちらを見ている
太陽は天高く昇っており、どうやら20時間程度は寝ていたようだ

(ね、寝ていた!?あの状況で!?しかもあの体勢…膝枕だった!?)

冷静に状況を分析していたはずだが、すぐにパニックに陥ってしまう
考えれば考えるほど現状が理解できなくなる―頭の中が危機的状況だ
その彼の心境を知ってか知らでか、彼女は慣れた手つきでティーセットを用意している
そして彼に、とりあえず落ち着いて座るように命じた―その言葉に、本能的に逆らうことができなかった


「…どうして自分を助けたんです?」

青年は落ち着きがない様子でそう尋ねた
―落ち着かない理由は分かっている
知り合いでもない、恐らく妖怪と思われる女性と差し向かいでいること
そして何より、彼女の一挙手一投足が魅力的であったからである
里の女性とは違う、瀟洒で気品の感じられるそれに魅せられたと言っていいだろう
その心境を自覚しているからこそ、心穏やかではいられない

「気まぐれかしらね―それに、弱い者いじめは趣味じゃないの」

彼女は深く考えた様子もなく、そう答えた
これは油断を誘っているのだろうか?
いや、答えは明らかにNOであろう
彼女が本気になれば、もう何十回と殺されているはずだ
ならば―彼は思い切って、彼女と話をしてみることにした

かれこれ一刻は話していただろうか…その中で様々な情報を得ることができた
彼女の名前は”風見幽香”で、ここは”太陽の畑”と呼ばれる場所だということ
この場所は霊感の強い者にしか見えないこと、妖怪は霊感の強い者の肉を好むこと
彼女は強敵との戦いと花が好きで、かつては別の場所に住んでいたこと


話せば話すほど彼女は魅力的で、青年の心から恐怖心は消え、ある一つの感情が芽生えた
だが、それを表に出すことはできない
自分は人間で、彼女は妖怪―いや、たとえそうでなくても、彼にとってはあまりに”高嶺の花”であった
だから彼はこの時を、刹那的な出会いを楽しむことにした


「そろそろ妖怪の時間よ、あなたは里に帰りなさい」

陽が西に傾きかけたころ、彼女はそう青年に告げた
彼とて馬鹿ではない―その言葉の意味を理解しては頷かざるを得なかった
昼間でさえ襲われたのだ、夜の森など歩けるものではない―しかも武器はすでにない
自ら死を選ぶ選択肢など、存在するはずがなかった

「あなたに”これ”をあげるわ」

そう言って彼女が差し出したのは、大豆ぐらいの大きさの種だった
この種に従えば里にたどり着けるし、妖怪除けにもなる代物らしい
彼は躊躇うことなくそれを受け取る―心を悟られないように、努めて冷静に振舞う

「―ありがとう、幽香さん」

彼女に背を向けて礼を言う
無礼ではあるが、こうでもしないと耐えられなかった
その声は震えており、自分でも滑稽だと思ってしまうほどだ
だから、そのまま振り返らず、静かに歩き出す


『自信が持てるようになったらまた来なさい―歓迎するわ』


確かにそう聞こえた気がした
だが、本当にそうなのかは分からない
聞き返す勇気も、振り返る勇気もなかった
青年はただ導かれるままに歩き、太陽の畑を、森を抜けた




澄み切った青空が眩しい
畑にはトマトやナス、ドウモロコシといった作物が実り、生命を輝かせている

「んーっ!今年も豊作だな」

作物に集る虫を駆除していた青年が腰を伸ばす
ここ数年の収穫は目覚ましいほどに多く、出来も最高と言っていいものだ
里の年寄り連中にまで驚かれるぐらいなのだから、彼の努力や才能は底知れぬということなのだろうか

「ふぅ…少し休憩するか」

伸ばした腰を叩きながら、畑の一角に置かれた切り株に座る
ここからだと畑が一望でき、心地良い風も通るので休憩には打ってつけなのだ

「あれから3年か…もう遠い過去のような気がするな…」

青年は空を眺めながら思い出に浸る
あの日の出来事ははっきりと覚えている
はっきりと覚えてはいるのだが、それが現実だったのか、それとも夢だったのか…
今となっては、どちらにも思える記憶となってしまった


「また会えるよな―幽香」

自然と微笑む彼の横で

一本の向日葵が風に揺れていた


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2010.04.16 Fri l 東方SS l COM(1) TB(0) l top ▲

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2010.04.18 Sun l . l 編集

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